< プロジェクトX  : ブラックコーヒー >



 サツキはこの歳になるまで、コーヒーをブラックで飲んだ事がなかった。

 与えられたミルクは最後の一滴まで振り落とすようにして使い切った。

 無制限に注ぎ込まれたグラニュー糖は、溶け切らず底に沈澱して

 ヘドロの層を重ねた。


 これは、何気なくコーヒーを飲んでいた少年が、気の遠くなるような

 年月の果てに、ようやくその真実にたどり着くという、想像を超えた

 愛と感動の物語である。


 年老いて健康が気になりだしたサツキは、セリーズに勧められて

 ブラックコーヒーに挑戦する決意を固めた。

 薄めたコーヒーから始めて、少しづつその苦味に耐えるという

 前代未聞の特訓が始まったのだ。

 長い間甘味に慣れ親しんだ舌と、糖分を頑ななまでに拒絶し続けた

 黒い液体との戦いは、壮絶を極めた。


 2002年12月○日、

 サツキは濃い目のコーヒーをブラックで、・・・・・ 飲んだ。



 ( BGM : ♪ 風の中のスーバルー ♪ 砂の中のギーンガー ♪